丈夫だけど柔軟。それこそが「糸偏」の商売

百年以上続く株式会社 松崎の暖簾を守る六代目。
それは、代々「糸偏」の仕事を通じて培った信頼のバトンを預かり、百年の時を駆け続けた大いなるリレーの「第六走者」を務めること。
その道のりの長さとバトンの重みを感じ、必要とされてきたことへの感謝をかみしめながら経営の責を担う、株式会社 松崎社長の思いを伝えます。

創業百十年の老舗を引き継ぐということ

入社前にはずいぶん生意気なことも考えていました。
これからの時代、必ずしも長男だから家業を継ぐ必要はないのではないか。
極端な話、M&Aでどこかの会社に後を任せることができるのなら、そういうやり方で事業継承をするのもいいのではないか。
そんな私の考え方がいかに甘かったか、実際に入社して、現場で働く中で思い知っていきます。

一つの企業が百年以上も続くというのは、それはもう奇跡のようなものです。
その間ずっと世の中に必要とされてきた現実、バトンをつないできた代々の経営者、それを支えてくれたスタッフの皆さんの思いを考えると、そんな簡単なものではないなと自覚したのです。

コツコツと積み重ねてきた人と人とのつながりこそが、老舗を支える礎であり、次の時代に向かう推進力です。

自然に受け入れてきたはずの「跡を継ぐ」という言葉の重みを、ようやく実感し、日々稼業に勤しんでいます。

お客様の声とともに

「松崎さんは何屋さん?」
と、よく聞かれます。
そんなときには
「「糸偏」の仕事をしています」
と答えます。

株式会社 松崎は、明治三十九年の創業以来、時代の変化によって変わるお客様のニーズに応えながら、一貫して繊維商品を取り扱ってきました。

開業当初は織機による機織り工場でした。
その後、下駄の鼻緒を生産して全国に卸すようになりました。下駄から靴の時代になると、綿布問屋として綿の反物を扱いました。ポリエステルがなかった当時、布製品の大半が綿で、綿の需要は格段に大きかったのです。

戦後、日本の企業が右肩上がりに力を伸ばした高度成長期には、ユニフォーム生産が業務の主力を担うようになりました。
戦前に軍服を生産していた会社の多くが、戦後、こぞって学生服や作業着製造に業務転換しました。丈夫で実用的、そして均質な衣類を提供するノウハウを生かしてのことでした。
当社は軍服の扱いこそありませんでしたが、戦前から綿布を扱ってきた実績から、需要の多いユニフォーム生産に参入したのです。

こうした会社の変遷を振り返ってもわかるとおり、辿ってきた道のりは決して一本道ではありませんでした。
「繊維」という大きな枠組みの中で、その時々にお客様から必要とされているものを汲み上げ、真摯に応えてきた軌跡であるといえるでしょう。

この柔軟性こそが、百年以上続いた老舗企業の底力であり、生き様です。
百年の間、皆様から求められてきた会社とは、百年間、時代の声に耳を傾け、自分たちに求められているものを必死に探し続けてきた会社なのです。

時代に求められているユニフォームは?

現在当社が主力として取り組んでいるのは、ユニフォーム販売です。

清潔でおしゃれなユニフォームの会社と、清潔感のないあか抜けないユニフォームの会社。同じ業務内容なら、どちらで働きたいと思うかは言うまでもありません。
中学生がかわいい制服の高校に行きたがるのと同様、年齢・性別にかかわらず、かっこいい制服・素敵な制服のある職場は、働き手にとっても魅力的です。

特に人手不足に悩むサービス業の経営者、人事担当の方は、このことに気づいているのではないでしょうか。
ユニフォーム市場は、これからまだまだ伸びていくと考えています。

ユニフォームの魅力は、なんといっても社員・スタッフがそれを身に着けた瞬間に、オンとオフが切り替わる点でしょう。

病院ではお医者さんも看護師さんも白衣を着ます。
衛生的な意味合いもあるでしょうが、やはり白衣を着ることで本人もプロフェッショナルなモードに変わり、自然とその役割に合った振る舞いをするようになります。

ビジネスマンでもスーツとネクタイで「よし、やるぞ!」という気持ちが出来上がります。
こんなふうに、身に着けるもの一つで本人の意識が仕事に向けてピリッと引き締まる。それが制服の大きな力だと思います。

では、理想のユニフォームってどういうものでしょうか。
会社の数だけ、理想のユニフォームがある。
私はそう考えています。

だからこそ、一社一社にぴったりの、理想の制服を提供することが、私たちの仕事です。
それを見つけ出すために、お客様とはたくさんお話させていただきます。

既製品の中にもたくさんの選択肢がある中、お客様があえてうちを選んでくださる事実を大切にしていきたい。
「松崎さんのところじゃないと」と言っていただけるような営業をしていきたいと思っています。
商品だけでなく、会社と会社、人と人、会社と人でつながっている社会が大好きです。

松崎さんって何屋さん?」
そう聞かれて答える
「「糸偏」の仕事をさせてもらっています」

これは、単に繊維という意味だけではありません。
「糸偏」にはすごくいい言葉がたくさんあります。
その中から選んだ五つの言葉を大切にしています。
「紡ぐ」・「結ぶ」・「絶えず」・「続く」・「縁」は、どれも人と人とのつながりを表す素晴らしい日本語です。

どんな時代になっても、たとえ多くの仕事がAIやネットに代替されるような世の中であっても、最終的に商売は人が介在していくという事実は変わらないはずです。
当社が守ってきた老舗の暖簾は、信頼の証として何物にも代えられない宝物です。